足場より落下 志賀忠重
山小屋に到着すると、杉林のほうから電動ノコギリの音がする。
品川君がすでに北側の破風の取り付けを始めている。蓮見さんは、品川君に下から材料や道具を渡す手元の作業をしている。私は一人で南側の破風取り付けを始める。
二人でやると楽な事が多いが、工夫しながら一人で少しづつ進める。天気はよく風もないので作業は楽しい。
一人での作業も慣れて来て順調に進む。
お腹が空いたのを感じ時計を見ると11時40分、10時の休憩もせずに頑張ってしまったようだ。もう一本短い破風を取り付けて、昼ご飯にしようと考える。
屋根から少し飛び出しているコンパネを電動ノコギリで切り終わ。その瞬間バキッと言う音と同時に乗っていた足場がなくなった。
記憶にあるのは足、お尻、頭と順番に地面にたたきつけられた感じがある。腰を打ったせいか息が出来ない。
そして動けない。蓮見さんが落ちたと叫ぶ声が聞こえた。すぐ近づいて来て声をかけてくれるが、息が出来ないので返事も出来ない。
品川君が医者に運ぼうかと言う。蓮見さんがもう少し動かさない方がいいでしょうと答える。
息が苦しいと同時に、お尻からドーンとついたので、体が動くのかが心配になる。苦しいなか、蓮見さんの膝に乗せた頭が心地よい気がした。
じっと苦しいのを耐えていたのは数分だろうが、かなり長く感じられる。ようやく息が普通に出来るようになり、少しづつ体を動かしてみる。
指は動く。左の手首が少し痛い。首も違和感がある。腰はどうか?
一度四つん這いになり、ゆっくり体を起こしてみる。立てる。ただ腰が重い。
激しく落ちた割りには重度の怪我はないようで一安心 。蓮見さんと品川君はさっそく足場が落ちた原因究明を始める。足場板を支えていた木が折れていた。良く見ると大きな節のところでポッキリ折れている。
品川君が私の体重を聞いて「それじゃ、三人のうち誰がここに乗っても折れていたね」という 。私は他の人でなくて本当に良かったと答える。品川君は「ボランティアの人達には怪我させたくないよなー」としみじみ言った。
こうして落下事故にもかかわらず、たいした怪我もしなかったのは運が良かったと思わざるをえない・
風もなく春を感じさせる日のおもわぬ事故でした。